メルボルン大学で学ぶ文化財・芸術作品の保存修復-Master of Cultural Materials Conservation


皆さんは「文化財の保存修復」と聞くと、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?

多くの方は、ルネサンス期の絵画を専門家が不思議な塗料などを使って絵画の表面をこすったり、汚れをとったりといったことを思い描くかもしれません。

こういった仕事に携わる人を、「コンサバター(conservator)」と呼ばれ、日本語では「保存修復家」といった意味合いになります。実際は絵画の保存修復にとどまらず、もっと幅広い分野に携わっており、後世に正しく記録を伝えていく重要な役割を担っています。

メルボルン大学のMaster of Cultural Materials Conservationでは、芸術分野や文化遺産の保存修復家と協力し、未来の世代のために美術品や文化財を伝える方法を学ぶことができます。

実際に通学した方の体験談も交えて、こちらのコースを紹介します。

カリキュラム構成

Master of Cultural Materials Conservationは通常2年のコース期間ですが、バックグラウンドによって1.5年、1年のコース期間にすることもできます。

カリキュラムは、必修科目、選択科目、キャップストーン科目があり、期間に応じて必修科目数が変わります。

2年のコース:7つの必修科目
1.5年のコース:4つの必修科目
1年のコース:2つの必修科目

キャップストーンはこちら3つのオプションがあります。

●Minor Thesis
研究テーマを設定して10,000文字の論文を仕上げます

●Treatment Research
様々な対象物の評価、ドキュメンテーション、保存についてのリサーチを行います。

●Industry Research
実際に関連機関の中で、プロジェクトに関わることができます。

入学概要

Master of Cultural Materials Conservationの入学概要はこちらのようになります。
期間 1年
入学時期 2月
出願締め切り 9月末

※メルボルン大学は査定に時間がかかる場合も多いので、締め切りよりも早めに出願をすることがお勧めです。
学費 A$44,992(約472万円)
英語力条件 IELTS6.5(アカデミック:各セクション6.0以上)
TOEFL iBT79(W21, S18, RL13以上)

メルボルン大学提携語学学校のホーソン・メルボルンで学び英語力条件を満たす方法もあります。
入学条件 [2年コース]分野を問わず学士号を70%以上の成績で修了しており、メルボルン大学で50単位相当の論述及び分析的評価を含む科目を受講していること。

[1.5年コース]関連した学士号を70%以上の成績で修了していること。

[1年コース]関連したHonousを70%以上の成績で修了していること。もしくは、関連した学士号を70%以上の成績修了しており、2年以上の関連した職歴をもっていること。

1.5年、1年のコースを希望する場合、こちらの提出も必要です。

・英文履歴書
・2名のRefereesの連絡先
・カバーレター

またケースバイケースで、2名のリファレンスレター、インタビュー、職歴証明書も必要となります。
注意事項 ・ポートフォリオや色覚、手先の器用さは入学条件には入っていませんが、色覚異常や不器用さがある場合はコースコーディネーターとサポートについて話し合ってください。

・大学で化学の勉強をしていることは有利になりますが、化学のバックグラウンドがない方用に、1週間の化学の基礎を学ぶChemistry Bridging Courseもあります。こちらのコースは通常の入学日よりも少し早い時期に開講されるので、渡航日に注意をしてください。

Master of Cultural Materials Conservation体験談


実際に2023年にMaster of Cultural Materials Conservationに入学をしたAさんに、コース内容についてお話を伺いました。

Aさんは日本では博物館で学芸員兼司書として、展覧会の企画やコレクション管理等の業務に携わっていました。仕事の中で海外の人とも関わることがあり、話を聞くうちに、海外へ出てみたいという気持ちが高まり、メルボルン大学への進学を決めました。

学べる内容

端的に言えば、私たちの文化遺産を保護する仕事をするConservator(コンサバター:保存修復家)を養成するコースです。保存修復分野における倫理、文化的考慮、政策枠組みなど専門家として知るべき背景から、材料の取り扱いや劣化要因、科学的アプローチ法などの基礎知識、実際の作業としてのDocumentation(ドキュメンテーション:文書化)や処置技術などを幅広く学びます。

最終的に絵画、紙資料、オブジェクトから一つを選択して専門領域を学びます。

コンサバターも、修復や予防保存を専門にする人や、コレクションマネジメントに携わる人など、色々な専門があり、近年では、パフォーマンスや踊りなどの無形物、多様な素材、例えば廃棄物や植物、デジタルコンテンツなどを使った現代アート等をどう記録として残していくか等も重要な課題になっています。

興味深かった科目と大変だった科目

※Aさんが学んでいた時と科目名称が変更されているものもあります。

全体的に大変でしたが、これまで学んだり経験したりしている内容であっても、文化財を取り巻く環境や状況というものは常に変化をしていて、新たな気持ちで学ぶことができました。

●Introduction to Conservation Treatment
この科目は、1年目の必修科目で、科目名の通り、コンサベーションの処置のさまざまな基礎を学ぶ科目でした。

コンサベーションにおいて、対象物とその対象物に行った作業を次の所有者や処置を行うコンサバターに正確に伝えるドキュメンテーションは非常に重要な作業です。特に近年の芸術作品などは様々な素材コンセプト(植物や泥、ごみ、デジタルを使ったもの等)が混在し複雑化していますので、それらをどのように記録するかは大きな課題の一つです。

その一環で、パソコンのハードディスクを自分で分解して、その分解手順と再構築手順のマニュアルを作成するという課題がありました。再構築のマニュアルを作成した後は、他の学生と分解したハードディスク&マニュアルを交換して、そのマニュアルで分解前の状況に戻せるかを確認してもらい、何が足りなかったかをレポートします。

自分は作業をしていてわかっていても、相手に文章や画像だけで正確に伝えることは時として困難を伴います。使用した工具はなにか、対象物や工具の向き、力加減、素材の違いなどなど、いろいろな気づきがあります。これらを端的に正確に他者に伝えるためにはどうすればいいか、ドキュメンテーションの重要性、そして難しさを、身をもって体験し、自分の作業の仕方や視点を見直すことができた貴重な時間となりました。

●Conservation Actions 2
この科目は選択科目で、3つの領域(絵画、紙、オブジェクト)から1つの領域を選び、実践的な処置をより多く経験することができる科目でした。

具体的には、Teaching period期間中(授業期間中)に様々な素材の処置法を学びながら、各自に割り当てられたオブジェクトに対し、状態報告書を作成した上で、処置提案書を作成、承認を得たのちに、実際の処置を対象物に行い、最終的な状態について結果報告書を作成する、という流れの科目です。割り当てられるオブジェクトは博物館や美術館等が所有する実際の資料ですので、緊張も伴いますが、スーパーバイザーの指導の下で、リアルな世界、思考、手順を体験しながら学ぶことができます。

1年目にも必修科目のConservation Actions 1がありましたが、この選択科目のActions 2では個人作業の課題とグループ作業の課題の2つのオブジェクトが割り当てられたので、単純に考えても作業量が倍になったこと、また担当したオブジェクトも、より複雑な構成でしたので試行錯誤も含め時間もかかり大変でした(ちなみに私は100年以上前の人体模型と屋外展示の木製彫刻作品でした)。

でも、私は実際の処置を学ぶことを一番の目的としてメルボルンに来ましたので、実際にオブジェクトを受け入れてから、調査、文献探し、処置やテストを完了させ、書類を作成するところまで、流れに沿って行えたことは非常に勉強になりましたし、強く印象に残っています。文化財を残す作業は、そのモノに関わる多くの関係者、専門家の協力の元に成り立ちます。仲間や講師と議論を交わしながらより良い作業内容を策定していく過程は貴重な経験でした。

大学の授業形式や講師陣

Master of Cultural Materials Conservationは、集中講義形式をとっており、他のコースとは異なりました。通常は1セメスターに4科目を受講し、毎週固定の時間に授業や実習がありますが、本コースの科目の多くは、約3週間のPre-teaching period、対面で行われる2週間ほどのTeaching period、その後のAssessment periodで構成されています(例外あり)。

メリットは、多少授業が重なることはあるとはいえ、一科目に集中することができることです。ただし、対面の授業の2週間にすべてが集中し、時には課題もいくつか入ります。事前期間も含めうまく準備し消化していかないとパンクします。そして科目の取り方によっては授業が切れ目なくずっと続き、私の1年目はSemester break(学期中のお休み)がほぼありませんでした。

この授業スタイルは、一つの領域に集中して知識を入れ込むことができるので、私にとっては良かったですが、科目によって授業スケジュールやスタイルが大きく変わるため、自己、スケジュール管理が非常に求められますので、人によっては大変かもしれません。

授業や実習では、第一線で働いているコンサバターや関係者が講師として来ることも多く、また、実際に博物館や美術館等の現場を訪れたりもし、非常に実践的な授業が行われました。

クラスメート

歴史学やアートの学位を持っており、博物館や美術館、図書館等で働いていたり、働いていた経験を持っていたりと、関連分野の経験を持つ学生が多かったです。そこから保存修復を学ぶため、この分野に転向するために勉強をしているという印象でした。

ちなみにこの分野は、薬品等も扱うので一定の化学の知識も必要です。バックグラウンドが文系ですと化学は忌避されがちですが、そういった学生のために、コース開始前に1週間の化学の補講があります。

私は仕事の関係で多少の知識はあったものの不安もあったので受講しましたが、化学の基礎的な内容で、講師の方は文系の方にもわかりやすく非常に丁寧に教えてくれました。

苦労したこと

とにかく英語です!

英語でのコミュニケーションが特に苦手でしたが、多くの仲間や先生方に助けていただきました。読み書きは、気合と根性…とは言いたくありませんが、でも人よりも時間がかかることを前提に根気強く取り組むしかありませんでした。

授業内容は、私は日本で一度この分野の基礎を学習済みのため、英語での理解が追い付かなくても、ある程度あたりを付けながら学ぶことができたので、過去の経験が役に立ちました。もちろん新しいことや機器分析、科学分野で理解に苦しむときにはその分野の日本語文献・情報を探して読んで下地を入れてから、もう一度英語を読むということをしていました。

一方で、この分野に関する知識が日本語である分、内容を聞いても日本語が先に出てきてしまい、英語に置き換えることが難しい、という苦労もありました。

英語に関しては、メルボルン大学入学前に、提携語学学校ホーソンのメルボルン大学進学用英語コースUMELBPで学びましたが、ここでの学びは非常に役に立ちました。

これまでも仕事や、日本で修士取得時に英語の文章を読んだりすることはありましたが、分量がはるかに異なりますし、英語で書くことはしていなかったので、ホーソンでの訓練がなかったらもっと苦労していたことは確実です。あと、Referenceのルールや、メルボルン大学での提出方法に先に慣れることができたのもよかったです。

そして、使えるツールは使いました。例えばGrammarlyは最初の講義で先生に勧められたので、課題提出時にチェックでよく使いました。大学側も色々なアカデミックサポートの提供はありますが、私は授業スケジュールの関係からタイミングがなかなか合わずほとんど利用することはありませんでした。

日本との違い

基本的に文化財・芸術作品保護について日本との根本的なやり方の違いはあるとは感じません。文化財を後世に伝えるために行う努力や工程、その処置は一緒です。

文化財・芸術品には個々に唯一無二の文化的背景、辿ってきた歴史があり、コンサベーションに携わる人間はそれらを十分に調査、考慮し、尊重する必要があります。多民族国家であるオーストラリアで学んだことは、対象物の個々が持つその背景について強く意識する機会となり、よりグローバルな視点を養うきっかけになったと感じています。

コンサバターの仕事は、保管、修復、検査、ドキュメンテーション、リサーチ、アドバイス、トリートメント、予防保存、トレーニング、教育といった活動内容が含まれます。

例えば、産業遺産の鉄道車両を保存修復する場合、実際に使用していた間に塗装の塗り直しや修理等も通常あるため、いつの時代の状態に復元したいかによって修復作業は変わってきます。

実際、コース在籍中に鉄道車両の塗装成分分析を行う機会がありましたが、常に使用され続けてきた大型産業物の歴史的痕跡を正確にたどることは困難を極めます。コンサバターは現状の状態を検査することはもちろん、文献等からその車両の歴史的背景や材料・技術について調べるほか、科学的手法を駆使しながら対象物が持つ痕跡を可能な限り特定し、得られたすべての情報を統合し、関係者と共有して最適な処置方針決定のサポートをします。

そして実際の処置を行う際には、具体的な作業内容やその意図など、すべての工程を記録に残し、さらには将来的な再処置や管理・環境改善などの提案も行います。

実態のない現代アートのような作品やオブジェクトとして保存が難しいものも、どう残していくかも重要となっており、作者の意図やコンセプト等も調査して記録することで、それを実際に見ることができない人や後世の人たちが理解できるようにし、守り続けることができるようにします。このようにコンサバターは、ただ物理的に処置を施し対象物を安定化させるだけが仕事ではなく、大局的な視点と知識・技術を持って、今もなお生み出される私たちの文化遺産の保護に取り組むことが求められています。

コンサバターという職業でいうと、日本では、最近でこそ、ごく一部で保存科学担当を配置する博物館・美術館等が出てきましたが、欧米の施設に比べると、コンサバターという専門職のポジションが広く認識、確立されているわけではありません。もちろん、施設の規模や状況によって配置の必要性の有無などはあると思いますが、日本においても文化遺産を守る専門職として、より広く認知されるようになるといいなと思います。

メルボルン大学への進学相談


オーストラリア留学センターは、メルボルン大学の日本の公式出願相談・相談窓口として、皆さまのメルボルン大学進学を無料でお手伝いしております。

メルボルン大学のMaster of Cultural Materials Conservationにご興味のある方は、お気軽にお問い合わせ下さい。

お問い合わせ時にこちら情報をお伝えいただけますと、より具体的にご相談をすることができます。

[学歴]大学・大学院の卒業(予定)年月・専門・成績
[職歴]職歴がある場合は在職期間(年月~年月)と主な職務内容
[英語力]IELTS(アカデミック)やTOEFL iBT等お持ちの場合は合計得点と各セクション(RWSL)の得点

**備考**
・本記事は2025年1月24日現在の情報に基づいており、入学基準や学費は変更されることもございますのでご留意ください。
・ご参考の日本円は1ドル=105円換算としております。
豪政府認定留学カウンセラーPIER資格保持
(QEAC登録番号H297)
現在はメルボルンからオーストラリア全土の留学相談をしております。色々な情報をインターネットで探せますが、やはり実際はどうなのか、何が本当なのか不安はつきまとうもの。まずはお気軽にご相談ください。考え過ぎて立ち止まるなら、一度動いてみませんか? このカウンセラーに質問する

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