4回目となるタウンズビル留学
今回でタウンズビルへの留学は4回目になりますね。過去3回はいつどのような目的で行ったのですか?
初めてタウンズビルに行ったのは高専2年生のとき学校のプログラムで語学学校に3週間行きました。2回目は高専3年生の時に現地の高校に5週間、3回目は高専4年生の時にJames Cook Universityにインターンとして2か月間行きました。
どれも夏休みを利用して行ったのですが、短いながらとても濃い思い出になりました。
"環境に優しいものづくり"
専攻をCheimcal Engineeringに決めた理由をおしえてください
もともとの高専での専攻が物質工学(※)でした。そこでは、化学全般(有機、無機、分析化学など)をエンジニアとして学びましたが、完全にエンジニアに特化しているというよりは理学(原理や法則を学ぶ)と工学(原理をもとにものづくりをする)が混ざったプログラムのように感じました。
私は特に
環境に優しいものづくりに興味があったので、大学では工学(エンジニアリング)を学びたいなと考えていました。
進路に迷っていたころJCUにインターンで行く機会があり、その際に行った研究が興味深く印象に残り、JCUのChemical Engineeringコースに進むことを決めました。
その際に行った研究とは、
《不要になったコーヒーの粉を窒素下で熱分解し地球温暖化ガスを発生させずにBiochar(バイオ炭)を作り、それをリンなどの吸着材として用いる》という研究でした。つまり、ゴミを二酸化炭素などを発生させない方法で役に立つものに変える、という実験です。
もともとは日本の大学に進学を考えていたのですが特に興味を惹かれる研究室がなく、海外に住んでみたかったのもあってJCUで学ぶことを決めました。
※参考:物質工学(材料工学) - Material Engineeringとは?
持続可能な社会と環境をつくる技術者
Cheimcal Engineering とはどのような学問ですか?
Engineeringは簡単にいうと
”住みやすい社会や環境のためのものづくり”を学ぶコースです。
その中でもChemical Engineeringは
化学製品や食品、燃料など化学に関係したものをどのように作るか、工場でそれを作る際にはどのような機械を使ってどのような化学反応を起こせばいいのか、どのような流れで作ればよいのか、どうしたら少ない材料でたくさんのものを作れるか、など、製品などを作るときの全体的な流れや手順を考えたり、できたものの検査を行う技術者です。
例えば、汚れた水をそのまま川や土に捨てると環境に悪いですよね。それをきれいな水に変えるための一連の流れを設計したり、人の役に立つ素材を作ったり、少ない燃料でたくさんのエネルギーを得る方法を考えたりするのがChemical Engineerの仕事です。
Process Engineering の問題は「パズルを解く感覚」!
小堺さんが「特に面白かった」という科目Process Engineering とは?その授業内容をおしえてください。
Process Engineering の授業はまず基本的な化学の内容から始まり、のちに材料を混ぜて化学反応や分離を行った際に出てくる物質の量はどのくらいか、などを計算する方法を学びました。
例えば化学反応を起こさない例だと、
「ココアパウダー100グラムと牛乳100グラムを混ぜたときに、できるココア(牛乳にココアパウダーが溶けた状態)の量はどのくらいで、溶け切らなかったココアパウダーはどのくらいになるのか」を計算したり、
化学反応を起こす例だと、
「A,B,Cの化学物質を混ぜると
A+B→D
A+C→E
の化学反応が起こる場合、DとEはそれぞれどのくらいできて、A,B,C(化学反応を起こさなかった材料)は最終的にどのくらい余って、この余る量を減らしてDとEの量を増やすためにはどのように反応条件を変えればいいのか」などを考えて計算します。
複雑な内容もありましたが、問題を解く際はパズルを解くみたいで楽しかったです。
経済活動が環境に及ぼす影響を評価する「環境経済学」
副専攻でSustainabilityを選んだ理由と、そこで履修した科目「環境経済学」についておしえてください
Engineerは人のためのものづくりをする技術者です。しかし、どんなに便利なものを作ってもそれが環境や地球に悪いものであれば人類にとって良いものを作ったとは言えません。
最近では持続可能な社会を目指したものづくりが求められ、Engineeringの授業でもSDGsなどについて触れられることがあります。
もともと環境には興味があったので、エンジニアとして持続可能な社会を実現させるために求められることをいろんな視野からより深く学べればいいなと思い、Sustainabilityを副専攻として選びました。
この副専攻で履修した科目の1つ、「Environmental Economics(環境経済)」の授業では、あるプロジェクトが行われる際に環境(森や生態系)が破壊されるとき、そのプロジェクトを行うことと行わないで環境を守ること、どちらのほうが利益があるのか考えたり、環境に値段をつけるとどのくらいの価値があるのか考えたりする授業でした。
授業では、環境に値段を付ける際にどの環境に対してはどの方法が良いのか、や、環境を守る政策についてどんな方法が効果的なのか、などを話し合いました。
毎週動画を見てのその週にディスカッションする内容の理論や例を学ぶのですが、今まで聞いたことのない専門用語や英語が出てきて全く理解できなかったり、動画内容を理解できてもディスカッションで周りの人が言っていることがわからなかったり、話の速さについていけなかったりと、履修した教科の中で一番大変でした。
課題も、他の教科にあるような「計算などをして一つしかない答えを導きだす」というのとは違って、プレゼンやエッセイで環境問題や政策について分析し自分の考えを英語で伝えるものだったのでとても苦労しました。
どんなに勉強時間を割いても結果が伴わないこともあって悔しい思いを何回もしましたが、とても興味深い授業だったので履修して良かったと感じています。
大学のワークショップや勉強会に積極的に参加
授業以外ではどのように勉強していますか?
平日は毎日18時までは集中できなくても図書室にいる、と決めていたので、最低でも授業以外に2-3時間、集中できる日だと6-7時間勉強してました。
授業で分からないことがあったらまずは教科書で確認し、それでもわからないときは毎週のワークショップでチューターや教授に必ず質問して解決していました。特にチューターは年齢も近くて質問しやすく毎回たくさん質問しました。私がなかなか理解できなくても根気強く教えてくれたのでとても有り難かったです。
教授も授業後に1時間も質問に付き合ってくれたりと、たくさん助けてもらいました。毎回、前の席で授業を聞いていたり、ワークショップの時間に質問すると顔を覚えてくれ、チューターや教授のほうから困っていることはないか聞いてくれたので、どの授業もとてもやりやすかったです。
また、以前に同じ教科を履修したことのある学生が開く勉強会「PASS」が毎週あったので、必ず参加するようにしていました。ここでは授業で行わなかった問題を解いたり、授業では理解しきれなかった理論を詳しく教えてもらったり、中にはゲーム形式で楽しく学べるようにしてくれたものもあったので更にその教科について理解を深めるのにとても役に立ちました。
”留学生としての疎外感を感じさせない” オールインクルーシブな交友関係
JCUでの大学1年目を振り返って嬉しかったこと・驚いたことはありますか?
私は英語力が抜群にあるわけではない上に、人見知りなところがあるので、留学前は友達作りには苦労するだろうなと思っていました。高専時代に留学生のクラスメイトのチューターを担当していたときにもなんとなく他のクラスメイトが出す留学生への話しづらさみたいなものを感じていたので、はじめから留学生が完全に溶け込むのは難しいだろうと思っていました。
しかし、実際にJCUに入学してみると私がどんなにたどたどしい英語を話しても毎日変わらず話しかけてくれ、難しい教科はお互いに助け合ったりと、
留学生としての疎外感を感じることはほとんどありませんでした。
はじめは寂しくて辛い経験をするだろうと思っていたので、現地の学生たちが留学生・ローカル関係なく接してくれたことはとても嬉しかったし、安心しました。
この「どこの国出身かは関係なく接してくれる雰囲気」が1年間大きな問題なく大学生活を過ごせた理由の1つだと思います。
スクーバダイビングもヨガも・・・オーストラリアの大自然に触れる留学生活
お休みの日はどのように過ごしていますか?
せっかくオーストラリアに来たのだからと思い、セメスター途中の休みを利用してスクーバダイビングのライセンスを取りました。
JCUは海洋学が有名で世界中のダイバーが海についてもっと深く学ぶためにやって来るためかDive Clubも盛んで、私はDive Club主催のLive Aboard(5日間船泊の旅)に参加して免許をとってきました。
グレートバリアリーフを何か所も巡りながらダイビングの仕方を学んだのですが、はじめて近くで見るグレートバリアリーフは本当に綺麗で、オーストラリアにきて良かったー!と改めて思える体験でした。
また、毎週土曜日にはビーチに行ってアクロバティックヨガをやっています。これは、毎週大学で開かれるinternational Cafeで出会った友達が紹介してくれたもので、クラスというよりはみんな適当に集まって楽しみながらゆるくヨガを楽しむソーシャルグループで、勉強で疲れた身体をリラックスさせるのにちょうどいいです!学生・社会人関係なくいろんな人が毎週くるので、様々な出会いがあるのも楽しみの1つですね。
”日本を技術者として守っていきたい”
卒業後は日本で就職したいと考えている理由は?
日本で就職したい理由は、日本内部から技術者として日本を支えたいと思っているからです。
留学しているととても好意的に日本のことを話してくれる人がたくさんいます。オーストラリアに来てから日本は自分が思っている以上に愛されていると感じ、以前より日本人であることを誇りに思うようになりました。
この日本を技術者として守っていきたいです。
また、日本で生まれて22年間住んでいて日本が抱える問題をたくさん見てきて、高専ではよく
「君たちのような技術者がこれからの未来を作る」と言われてきました。大学で学んだ知識を生かして現代の日本や世界が抱える問題を少しでも解決できる技術者になりたいです。
困難は"面白い"と発想を変えて乗り越えられる
最後に、これからエンジニアリングコースを目指す中高生たちへメッセージをお願いします
よくエンジニアリングの授業は大変だと言われますが、それぞれの授業はとても面白く、学びがいのあるコースです!私自身、留学する前はいろいろな不安を抱えていましたが、来てしまえばなんとかなるなと感じています。
授業も難しいですが、助けを求めれば誰かが手を差し伸べてくれるし、人とのコネクションを積極的に作ることで勉強しやすい環境を自分で作ることができます。
英語力に関しては、やはり語彙力は増やしていたほうがいいと思います。私自身語彙力があまりないため、エッセイやレポートを書く際に苦労しました。また、人と話すときも語彙力があったほうがもっと充実したコミュニケーションをとれると感じました。
オーストラリアで生活していると今まで常識だったことが簡単にひっくり返されたりしますが、それを面白いと思える視野の広さを持つことでどんな状況に陥っても大概のことは乗り越えられると思います!
〜スタッフからのコメント〜
物質を、目に見えないほど微細な原子レベルから組織していき、社会・環境に役立つ大きな”ものづくり”を担うのがケミカルエンジニアリング。根幹にあるのは、その過程も結果も”サステナブル”であること。
難しい説明も実例を挙げて易しい言葉で丁寧に説明してくれた小堺さん。話を聞いているだけでワクワクしてきました!技術面で将来の日本社会を支えてくれる頼もしい人材になることを心から期待して、これからもその成長を楽しみにしています。
将来、技術者として社会と環境に配慮した”ものづくり”に興味のある方は、Chemical Engineerという道を考えてみてはいかがでしょうか。