留学のきっかけと、エンジニアリング学部を選んだ理由を教えて下さい。
実は僕、日本の大学受験に失敗したのです。受験で滑り止めを受けてなかったので、全滅してしまった。 年齢的にも周りより遅れてしまったので、「やばい、どうしよう」ってすごく焦ってました。
当時は誰に教わったわけでもないのに、「日本の大学に行かないと社会で生きていけない」みたいな謎の呪縛が自分の中にあったからです。コース選びにしても、日本にいたら特に理由もなく「とりあえず経済学部」とかに行ってたと思います。
留学でのコース選びでは「何か手に職をつけないと」という焦りがあったのと、昔祖父から聞いた話の影響で「モノづくり」に漠然とした憧れがあったので、エンジニアリングを選びました。まさか、そこからこんなに迷走することになるとは思わなかったですけど(笑)。
エンジニアリング学部に入学をしてみて、どうでしたか?
実際に授業を受けてみて「なんか違うな」と思ったのです。エンジニアリングのコース内でプログラミングの授業があったのですが、唯一おとしてしまったのがこの科目でした。普通なら苦手意識がでてくると思うのですが、不思議と「もっと勉強してみたい」と思いました。
当時はまだChatGPTはなかったのですが、AI系の映画が好きだったことやエンジニアリング学部の中で「AIがとてつもなく進歩している」と話題になり始めていたことから、「プログラミングをやるならAIを勉強したい」と強く思うようになりました。
そこから転部を決意した「決め手」は何でしたか?
単位を1つ落としただけで転部していいのかすごく迷い、日本にいるエンジニアの先輩に相談しました。元々トヨタで働いていたベテランの方です。その先輩に、「Toraくんが今勉強したいって言ってるのは、『これまでにない新しいもの』を作る分野なんじゃない?」と言われたことで、自分のやりたいことは「新しいものを生み出すことだ」と腑に落ちました。
その後、学部長に「AIとか新しいものを作りたいからCS(コンピューターサイエンス)学部に行きたい」と伝えて、転部が決まりました。
CSに移ってから、どんな勉強をしましたか?
CSに移ってからは、AIやアルゴリズム、理論を中心に学びました。でも、正直キツかったです。 CSの課題って、24時間ずっとパソコンに向かって、2000行、3000行あるコードの中からたった1行のエラーを探し続ける…みたいな作業で、周りにはプログラミングができる「職人」のような学生が多くいました。これを楽しめる人はいいけど、僕は「誰とも喋らずにこれを一生やるのか?」と思ったら無理だなと悟りました。
そこからなぜIT(Information Technology)が自分に合っていると気づいたのですか?
ITの授業で「システム設計」を学んだ時にしっくりきたからです。 例えば「ドラゴンクエストのようなRPGを作る」となった時、CSの人は中身のプログラムを書くのが仕事ですが、ITの役割はその手前で「枠組み」を決めることです。「キャラクターには名前と年齢と職業が必要だ」「職業は勇者と魔法使いに分けよう」といった定義(クラス設計:システム全体の設計図のようなもの)をして、エンジニアに指示を出すのがITです。この役割なら自分にもできると感じました。
それを確信したのが、大学のグループワークで、自分以外全員外国人のチームでリーダーをした時です。自分はCSの経験があったので、「これはCSの仕事、これはITの仕事」と線引きをすることできました。そこで、CS出身のメンバーには「このコーディングは全部やって」と得意分野を任せ、自分はIT側として全体のマネジメントや資料作成を行いました。自分がコードを書くのではなく、書ける人を動かし、クライアント(人)とプログラマー(技術)の架け橋になる役割こそが自分の強みだと確信しました。
実際、クライアントの会社の方からもチームのフィードバックが良く、一緒にやったクラスメートからも感謝してもらえたことから、一番自信になった出来事でした。
これから学部を選ぶ人に、それぞれの違いを教えるとしたら?
自身の実体験からこのように解釈しています。
• Engineer(エンジニア):
家電、ロボット、建築、エネルギーなど、「形あるもの」を作りたい人向け。僕はここでメカトロニクス(電子工学)を学びました。
• Computer Science(CS):
アプリ開発やAI、セキュリティなど、コンピューターの理論を深く研究する分野。一つの技術をとことん突き詰めたい職人気質の人に向いています。
• Information Technology(IT):
CSの知識を使いながら、実際にシステムを制作・運用・管理する分野。「どんなアプリを作りたいか」を定義したり、開発者に指示を出したりと、人とつながりながら開発を進めたい人におすすめです。
ウーロンゴン大学での生活はどうでしたか?
実はエンジニアリング学部の時、周りの99%がオーストラリア人(オージー)だったんですよ。留学生とかアジア人がほぼゼロ。だから「お前だれ?」みたいな完全アウェーな環境でした。でも逆にそれが良くて、日本人がいないからこそ現地の友達を作るしかなかったんです。
友達作りは寮生活が大きかったですね。「Kiera View」という寮に住んだ時、4人部屋で残り3人が全員オーストラリア人でした。彼らが「遊び行こうぜ」って誘ってくれて、オーストラリア人の輪が一気に広がりました。
他には、自分から主張することも大事にしていました。自分はバスケをするのですが、大学でバスケをするときは、大学のコートに一人で行って「入れて!」と頼んで混ぜてもらったりしていましたね。海外では自分から言わないとナメられるし、何も始まりません。待っているだけではなく、自分から飛び込むことでとても楽しい生活になりました。
食事については……1年生の時は半年間ずっと、ご飯とブロッコリーと鶏肉の炒め物だけ食べてました。「栄養が取れて腹にたまればいいや」って割り切ってましたね(笑)
就職先はどうやって選びましたか?
就職先は、日本のITコンサル(*1)や先端技術を扱う会社にきまりました。選んだポイントは「人」ですね。就活中、いろいろな部署の先輩とも話をさせてもらったのですが、皆さん良い方ばかりでした。また、長く働いている方に「会社には特に不満がない」って言われたことで、そういう会社なら間違いないなと思いました。 将来的には、ブレインテック(*2)とかAIといった、最先端の研究や技術に携わりたいと思っていて、海外支部で働くのが今の目標です。
*1:企業の悩みをITで解決する仕事
*2:脳の情報を活用する技術など
学部を変えた経験は、就職活動でどう評価されましたか?
最大の武器になったのは「エンジニアやCSで挫折してITに移った経験」そのものです。世の中にはプログラミングができる天才(CS気質)は沢山いますが、彼らは専門用語を知らないクライアントへの説明が苦手なことがあります。逆に文系の人は、技術のことが分からず実現不可能な提案をしてしまうことがある。自分はCSの勉強をしたから「技術者の言葉(コードの難しさ)」が分かるし、ITの勉強をしたから「クライアントの要望を整理して伝える」こともできる。その「架け橋」になれることが自分の希少価値だとアピールし、評価をいただけました。
進路やコース選びに悩んでいる高校生へ、メッセージをお願いします
高校生の時点でやりたいことが明確に決まっていなくても大丈夫です。大学に入ってから、僕のように「やっぱり違う」と思って学部を変えてもいいんです。 日本の大学に行かないと生きていけないなんてことは全くありません。むしろ海外に来て、いろんなことに挑戦して、失敗して、やりたいことを見つける。そのプロセス自体が、結果として就活でも人生においても強い武器になります。まずは興味があることに飛び込んでみてください。