TAFEと大学のカリキュラムの違い
ー実際に正看護師として働き始め、改めてこの進路を選んでどう感じていますか?
正直、TAFE(ディプロマコース)から大学(UTS)に編入して正看護師になったのは、私にとってすごく良い選択だったと思っています。今、私は正看護師として働いていますが、もし大学の授業や実習だけで卒業していたら、現場でもっと苦労していたと思います。
ー大学とTAFEでは、具体的に何が違いましたか?
TAFEで学んだのは、まさに「看護師のベーシック(基礎)」でした。
最初はまだ看護が自分に合うかわからない状態でDiplomaからスタートしたのですが、TAFEではアセスメント(患者の状態評価)や薬剤の知識といった看護の基礎スキルを、先生が手取り足取り教えてくれました。 特に良かったのは、「ハンズオン(実技)」の授業が充実していたことです。
何度も繰り返し練習させられるので、知識だけでなく身体でスキルを覚えることができました。ここで基礎を固められ、准看護師の資格を持って進学ができたのは、私の大きな自信になりました。
<少人数でしっかりスキルを身につける、TAFEの授業>
大学(UTS)のカリキュラムは、どちらかというと「セオリー(理論)」が中心です。
現場で即戦力になるための「スキル」をしっかりテストされる機会は、大学では多くありませんでした。もちろん、練習用のラボ(実験室)の授業はありますが、先生1人に対して学生が20人ほどで、一度デモンストレーションを見せられた後は各自で練習する方式なので、自分から質問しに行かない限りチェックの機会が少ないのが実情でした。
理論の授業の例としては、3年生の授業で「エンパシー(共感)」について数百人のホールで講義を聴くクラスがありました。週2-3時間エンパシーについての講義を受けたり、「エンパシーのための9ステップを踏んでみる」など、TAFEで学んでいた看護の授業とのギャップを感じることもありましたが、大学ならではの面白い授業もありました。
例えば、「エビデンス・ベースド・ナーシング」という授業が印象に残っています。統計の読み方やリサーチデータベースの使い方を学ぶのですが、「なぜこのケアが必要なのか」を裏付ける論文やデータを読み解く力は、大学だからこそ学べる高度なスキルだと感じました。
<UTSの図書館>
名門病院から小児科まで。圧倒的な質を誇るUTSの「臨床実習」
ー実習について聞かせてください。
実習ではさまざまな病院で経験を積むことができました。
UTSでは、CPU(クリニカル・プレースメント・ユニット)」という専門部署が、学生の住居を考慮しながら最適な病院実習先を手配してくれました。私はTAFEと大学を合わせて合計で11箇所もの実習を経験することができました。
【TAFE時代の実習(計4箇所)】
・高齢者施設: 留学して最初の実習先
・Prince of Wales Hospital: メンタルヘルス救急病棟
・Sydney Children's Hospital: 小児外科病棟(手術前後のケア)
・St Vincent's Hospital: 心臓外科・内科病棟
【UTS時代の実習(計7箇所)】
・Royal Prince Alfred Hospital (RPA): 一般内科病棟
・Concord Hospital: ホスピス・緩和ケア(終末期医療)
・Chris O'Brien Lifehouse: オンコロジー(がん専門病棟)
・Mater Hospital: デイサージェリー(日帰り手術/自ら交渉してNICU実習も実現)
・Hornsby Hospital: 小児メンタルヘルス(自ら希望して配属)
・Sydney Hospital: 一般内科病棟
・Prince of Wales Hospital: オンコロジー(がん専門病棟)
実習中は様々な悩みが出てくるものですが、UTSでは先生(ファシリテーター)が学生についてくれ、実習中にも面談の機会があります。先生が学生と病院とのギャップを埋めるサポート役になってくれるので、安心して実習に臨むことができました。
ー実習先で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
病院実習は、自分から動けばチャンスをくれる環境でした。例えばマーター病院では、本来は日帰り手術の配属でしたが、どうしてもNICU(新生児の集中治療室)を見たいと思いマネージャーに直談判しました。「1日だけでも」と頼み込み、実際にNICU実習を実現できたのです。たまたまその日がNICUの記念日で、赤ちゃんやご家族への繊細なケアを見ることができ、非常に貴重な経験になりました。
他にも、チーム医療を学ぶために管理栄養士(Dietitian)さんの巡回に1日同行させてもらったり、プリンス・オブ・ウェールズ病院の精神科救急で冷静なコミュニケーションを学んだりと、主体的に動くことで多くのものを吸収できました。
大学時代に訪れたコンコード病院(ホスピス・緩和ケア)では、多くの患者さんの人生の最期に立ち会い、その人生観に触れたことが、今の私の看護観に大きな影響を与えています。
そして、最後の実習先となったプリンス・オブ・ウェールズ病院(がん病棟)で、がん看護の奥深さに魅了されました。この実習がきっかけで、『この道に進みたい』と強く思い、現在のキャリアに繋がっています。
ー実習を通して感じたことがあれば教えて下さい。
大学側は「現場で学ぶための準備を学校でし、スキルは現場で身につける」というスタンスです。ただ、実習では指示を待っているだけだと放置されることも多々あります。
私はTAFEでの基礎や准看護師としての経験があったので、「私は勉強しに来た。だからこれを教えて!」と強いマインドセットで挑めましたが、どこまで学びを自分のものにできるかは、本当に自分次第です。
実習を成功させる鍵は、自分から希望を口にすること。そして、「私はこれができます。だから次を教えてください!」と言えるだけの自信を、学校にいる間(学校のラボでの練習の間)につけておくことだと思います。
また、実際に実習で病院にいると、留学生、特にフィリピンからの看護師たちはすごく真面目で優秀で、オーストラリアの医療現場は、彼らがいなかったら回っていないんじゃないかと感じるどでした。私はそれを見て「どこに行っても、自分次第で実力に差がつくんだな」と身が引き締まる思いがしました。
在学中から「プロ」として働く。資格があるからこその特権
ー大学時代、GP(一般外来)で「准看護師(EN)」として働いていた経験について聞かせてください
これはTAFEを卒業して「准看護師」の資格を持っていたからこそ出来た選択です。一般的な大学生のアルバイトといえば飲食店が主ですが、私は大学に行きながらずっとGPで働くことができました。これは経験としても収入面でも本当に大きかったです。
GPでは病院とは違ったスキルが求められます。私が主に行っていたのは「怪我の処置(ドレッシング)」や「ワクチン接種」などです。
今の病院での仕事は「がん治療」がメインで分野は違いますが、GPで働いたことで「看護師としての考え方」や「判断への自信」が身につきました。病院では、自分で決断しなければいけない場面が本当に多かったです。
GPでシドニーのヘルスケアシステムを内側から見て、多種多様な患者さんと関わり、看護師としての話し方を学んだ経験があったから、今の正看護師としての仕事も「私なら大丈夫」という自信を持ってスタートをすることができたと思います。
ー実務経験がないまま卒業した同期とは差を感じますか?
正直、全然違います(笑)。新卒で入って何ヶ月経ってもスムーズに動けず、本人も自信を失ってしまうナースもいます。大学に入る前からTAFEで基礎を固め、「学び」と「実務」を同時にできるのが、編入ルートの最大のメリットだと実感しています。
看護師免許は、世界へ羽ばたくためのパスポート
ー現在はどのようなお仕事をされていますか?また将来の目標はありますか?
現在は私立病院の専門病棟で、主にがん患者さんの抗がん剤治療(ケモセラピー)を担当しています。 点滴のルート確保から抗がん剤の投与管理、副作用のチェックや血液検査の数値確認など、高い集中力が求められる責任ある仕事です。今後はさらに経験を積んで、がん化学療法の専門資格を取りたいと考えています。
将来的には、ヨーロッパなどの大学院で公衆衛生(パブリックヘルス)を学び、現場だけでなく教育やより広い視点でヘルスケアに関わりたいという夢があります。
ーこの留学生活を振り返っての感想をきかせてください。
看護留学を通して私が学んだのは、「考えすぎず、やりたいことを行動に移すことの大切さ」です。
看護師という仕事を通じて多様な人生に触れ、視野が大きく広がりました。オーストラリアでの経験は決して楽なものではありませんでしたが、不足している部分を自ら補い、自分から動くことで確実に道は拓けました。この経験は、これからの人生においても必ず役立つと確信しています。