| るみさんの留学プラン |
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■フリンダース大学 入学
・2022年2月 Bachelor of Science(Major: Animal Behaviour)開始
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・2024年12月 学士課程を終了
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・2025年1月 Bachelor of Science ‐Honours 開始
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・2025年12月 オナーズ課程を終了
■フリンダース大学 卒業
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体験談は、オナーズ(Honours)の1年間にフォーカスして寄稿していただきました。
オナーズ(Honours)って何? 1年間の研究? という未来の留学生にもぜひ参考にしていただきたい体験談です。
「オナーズ」という名のすべてが凝縮された一年
私は、フリンダース大学の Bachelor of Science で Animal Behaviour (動物行動学)を専攻しました。
3年間を終了後、教授推薦で 動物生態研究の「オナーズ(Honours) 課程」へ進学しました。
オーストラリアの大学では学士号を終えたあとに進学できる「オナーズ(Honours)」という1年間の研究課程があります。日本の修士(研究課程)で学ぶような内容を1年という期間に凝縮した、非常にタフなプログラムですが、オナーズ課程は、まさに試練の連続でした。
自分の研究への重圧
Honours の1月〜3月の間に、研究プロジェクトのプロポーザルを作成し、スーパーバイザーと議論を重ねて 研究プロジェクトを立ち上げます。
私の研究は「絶滅危惧種 ピグミーブルータングリザード(Pygmy Blue-tongue Lizard)の生態地域の特定」というものです。

7月くらいまでにフィールドトリップなどを重ね、データのコーディングと分析を行い、11月には研究成果をまとめて論文を完成させるというのが大体の流れになります。
初めて自分自身の研究プロジェクトを持つことになり、その責任の重みに圧倒される日々でした。「これをやり遂げられるだろうか」というプレッシャーは、常に私の肩にのしかかっていました。
スーパーバイザーの存在
最初の頃は、「こんなことを聞いたら、バカだと思われるかもしれない」と、指導教官であるスーパーバイザーに質問することを躊躇していました。
しかし、研究が進むにつれて、彼らは私の評価者ではなく、最強の味方なのだと気づきました。どんな些細な疑問にも真摯に向き合い、的確なアドバイスをくれる彼らの存在は、何よりも心強い支えでした。
博士課程より大変?
スーパーバイザーたちからは、何度もこう言われました。「オナーズは1年ですべてをやり遂げなければならない。もしかしたら 時間配分や計画性においては PhD(博士課程)よりも大変なんだよ」と。
スーパーバイザーの言う通り、研究計画の立案と提出、フィールドトリップ、データのコーディングと分析、そして論文執筆と発表まで。そのすべてが 目まぐるしいスピードで過ぎていきました。
実際、Honours は、研究室での文献調査やデータ分析に明け暮れる日々とも言えるのですが、私の研究の本当の舞台は研究室の中というよりも広大な野生(自然)の中でのフィールドトリップです。
フィールドトリップの喜びと苦労

1年間の研究生活のハイライトは、間違いなくフィールドトリップでした。炎天下、照りつける太陽から隠れる場所はほとんどなく、唯一の避難場所は車の中だけ。移動は車ですが、舗装された道路なんてありません。もちろんインターネットなんて繋がらない。そんな過酷な環境でしたが、そこには研究室では決して味わえない興奮と発見がありました。
絶滅危惧種のトカゲを「釣り上げる?」
草原に隠された穴の中に住むピグミーブルータングリザードを見つけ出し、その生態を調査するためです。文章にするととても簡単に聞こえますが、広大な自然の中で、彼らの行動範囲はわずか半径60mほど。だからこそ、「なぜここにいるのに、すぐ隣の草原にはいないのか?」という謎が生まれます。その調査方法は、驚くほど原始的なんです(笑)

(1)トカゲがいそうな巣穴を探します。彼らが出入りした痕跡が、重要な手がかりになります。
(2)餌をつけた「釣り竿」を使い、巣穴の中にいるトカゲをそっとおびき出します。
(3)トカゲが出てきたら、素早く捕獲!その場で体重や体長などのデータを測定します。
(4)調査が終わったら、必ず捕まえた場所の巣穴にそっと帰してあげます。
彼らの生態系を乱さないための鉄則です。
そもそも絶滅危惧種のトカゲです。この一連の作業は、トカゲがなかなか出てこない時には、延々と炎天下でじっと待ち続ける忍耐力が必要で、驚かせないように黙って動かずに待っている(時には一つの巣穴で20分以上・・)。想像してみてください(笑)
トカゲの巣穴の「先客」たち
巣穴のカメラ調査では、思わぬ「先客」たちとの出会いもありました。トカゲがいると思ってカメラを入れると、画面の奥から巨大なムカデがにょろりと現れたり、巣穴の主である「大きなクモ」と目が合ったり…。そのたびに小さな悲鳴を上げながらも、これもまたフィールドトリップのリアルな一面でした。
また、フィールドトリップでは、私の研究対象以外にも、忘れられない生き物たちとの出会いがありました。
トゲトゲの尻尾を持つトカゲ
トゲトゲの尻尾を持った 怪獣のようなこのトカゲはギッジースキンクです。
彼らのトゲトゲの尻尾は、ただの飾りではないんです。鳥などの天敵に襲われたら、頭から巣穴に逃げ込んだ後、この尻尾で入り口に栓(ひっかかり)をすることで、外敵から身を守るんです。

よく見ると、体に色のついた箇所があります。そう、これは研究者が個体を識別するために塗ったペンキで、野生の中で一匹一匹の行動を追跡するための大切な目印になります。
フェンスの上の巨大なトカゲ
フィールドトリップ中、車で草原を移動していると、フェンスの上に巨大な野生のトカゲが悠然と佇んでいたんです。

大きさは尻尾まで含めると、私の腕の長さほどもあってフィールドトリップ中の車内は大興奮です(笑)
自分の研究を進める傍らで経験したこれらの出会いは、オーストラリアという土地の生物多様性の豊かさを、私に改めて教えてくれました。
研究協力から生まれる新たな経験
野生動物に関わるフィールドトリップには、暗黙のルールがありますが、それは「
助け合い」の精神です。
私の本格的なフィールド調査(土壌調査)は少し出遅れました。その理由は 1月〜3月にかけて他のPhD(博士課程)の学生たちのプロジェクトをボランティアとして手伝っていたからということもあるんですが、そこでも 私は自分の専門分野だけでは得られない、貴重な体験をすることができました。もちろん、私のフィールドトリップもボランティアの手伝いによって支えられています。
鹿の駆除プロジェクト
特に印象的だったのが、外来種である「野生の鹿の個体数を管理する」博士課程の学生の研究を手伝ったことです。
その調査方法は、朝、ヘリコプター上から銃によって駆除された鹿の場所へ、 GPSを頼りに地上班の私たちが道なき道をかき分けて向かいます。

鹿の死骸から 歯や耳などのサンプルを採取します。歯の分析からは鹿の年齢だったり、メスの個体からは繁殖状況が分かります。
こうして集められたデータが、生態系のバランスを保つための「
科学的な個体数管理」に繋がっていくのです。
この体系的なアプローチは、近年、「熊の出没で大きな問題を抱える日本」と比べると、「
野生動物の生態調査と管理に対する考え方の違い」を浮き彫りにします。オーストラリアの先進的な取り組みを目の当たりにし、深く考えさせられる機会でした。
学生から先生へ〜情熱を次世代に繋ぐ
オナーズ課程での経験は、私に研究以外にもう一つ新たな機会を与えてくれました。
学部2年生向けの「アニマルハンドリング(動物の取り扱い方)」という授業で、デモンストレーターとして
教鞭を執る機会を得ました。
生徒たちのキラキラした目を見ていると、研究の面白さを「伝える」ことの喜びに加え、もう一つの重要な側面に気づきました。実はこれ、未来の研究を支えるボランティア候補を探す絶好の「リクルート」の機会でもあるのです!(笑)
ここで私の研究に興味を持ってくれた学生が、将来フィールドトリップを手伝ってくれるかもしれない(実際に手伝ってくれる学生も!)。まさに一挙両得の経験でした。
数々のフィールドトリップと出会いを経て、いよいよ私は、自分の研究プロジェクトの「データ」と向き合う最終段階へと進んでいきました。
研究で見えてきたこと
私の研究プロジェクトの目的は、ピグミーブルータングリザードが、なぜ「特定の草原にしか生息していないのか」を解明することでした。
この絶滅危惧種のトカゲはどの草原にでもいるわけではありません。
だからこそ「土壌の性質」が生息地の選択に影響を与えているのではないか、具体的には、トカゲが利用する穴を作るクモが「特定の土壌でないと潜れない可能性がある」といった、彼らが好む「土壌」に何か特別な秘密があるのではないかという仮説です。
土壌採集の現場へ
トカゲの生息が確認されている場所と、確認されていない場所を比較するために、それぞれの地点で土壌を「深さ 30cm」 採取します。

専用の器具(ゴルフのホールを作るような道具や掘削器具)を使って土を掘り起こすのですが、私は力が足りず 体重をかけてぶら下がるようにして回さないと深く埋まらないほど、体力的にハードな作業でした。そのため、力仕事ができる男性のボランティアを募って協力してもらうこともありました。

採集作業は天候との戦いもありました。特に、4月頃は雨も多く、土壌がドロドロのぬるぬるした状態になります。手が泥まみれになり、握力がなくなり 採集用のジップロックにペンで文字が書けないほどの苦労がありましたし、フィールドトリップには ボランティアのヘルプがなけれな成り立ちません。彼らの時間も限られるので、作業は天候の良い日だけを選ぶということはできません。
データが語る真実
採集したサンプルは研究室に持ち帰ります。
土壌サンプルをすべて出し、乾燥させてから専用の機械にかけて分析を行いますが、主に、その土壌が粘土質かどうかといった物理的な成分を調査します。

様々な土壌のサンプルから検証を重ね、最終段階となった結果は・・・・・・・
土壌には「
明確な違いが見つからなかった」という結論が出ました。
私は「あぁ、、研究成果で
発表することがない…」と深く落ち込みました。しかし、そんな私にスーパーバイザーはこう言ってくれました。
「
違いが見つからなかったことも、立派な研究結果なんだよ」
この言葉は、私の心を救ってくれたと思います。
科学的な探求とは、仮説を証明することだけが成功ではありません。仮説が正しくないことを証明することもまた、次の研究へと繋がる偉大な一歩なんだと。
今回の検証結果から、物理的な成分ではなく、化学的な成分が関係している可能性、あるいは環境要因ではなくトカゲの移動距離といった別の要因が影響しているのではないか,という新たな考察に至っています。私が「失敗」だと考えた結果は、未来の研究者たちへの一つの研究結果として引き継がれることになったと思うと、これこそが基礎研究の醍醐味だと、私は心の底から実感しました。
無事に卒業!今後の予定
研究結果の発表と論文の提出を終え、最終成績は「
最高得点」で卒業が確定しました!

ですが、実はまだフリンダース大学の研究室にいます。全く成績には関係ないんですが、もう少し別の角度から自身の研究をしてみたくて(笑)
担当教授から PhD(博士課程)へ進学することも推薦されました。
でも、一度、研究から離れて「現場を知りたいな」と思っています。また、学部生の一つの科目を受け持った経験から「動物の教育関連」での仕事に進みたく、いろいろ模索中です。そのために今から「卒業生ビザ」を申請します。
最後に・・大変だった、でも最高に楽しかった!
学士課程3年とHonours 1年、フリンダース大学で過ごした 4年間は、間違いなく人生で最も凝縮された、密度の濃い時間だったと言えます。
特に Honours の1年間は 炎天下でのフィールドトリップ、思うような研究結果が出ずに悩んだ日々、そして、日本では決して出会えなかったであろう、たくさんの生き物たちと人々との出会い。すべてを終えた今、心から言えるのは「やってよかった」という達成感です。
この経験は、私に動物の生態学分野の知識だけでなく、困難に立ち向かう強さと、仲間と協力することの大切さ、そして何より「科学を探求する純粋な楽しさ」を教えてくれました。
もし、これから留学を考えていて、動物たちの生態や研究に少しでも興味があるなら、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
特に「
爬虫類研究」においては、フリンダース大学には
トップレベルの教授陣と研究室があります。そこには、教科書の中だけでは決して学べない、驚きと感動に満ちてます。大変だった、でも最高に楽しかった!という経験ができるはずです!
スタッフからのコメント
初めてお会いした日のことを今でも覚えています。
「このトカゲ、めちゃくちゃ可愛いですよね!」と笑顔で写真を見せてくれたのは、るみさんでした(笑)
とても笑顔が素敵で、彼女の話を聞いているとなぜか僕も笑顔になるし、とてもワクワクするのです。
爬虫類女子と言う言葉があるなら、そのまんまピタリ当てはまる彼女ですが、好きなこと(学びたいこと)に全力投球のとてもピュアな女性という印象です。
PhDに進むかを随分悩まれたようですが、まずは卒業生ビザでの現地就職、応援しています。
ぜひ、アデレードで社会人としてまたキャッチアップできる日を楽しみにしています。