【体験談】「地図に100年残る仕事」〜アデレード大学で学ぶ風景建築〜

島田梨香さん | アデレード | The University of Adelaide | Architecture | 2年
海外の大学院を選ぶとき、多くの人がランキングや学費、都市の規模といったデータを比較検討するでしょう。もちろん、それらも重要な指標です。しかし、留学生活の本当の価値は、数字だけでは測れない部分に隠されているのかもしれません。

アデレード大学院のランドスケープアーキテクチャー修士号をご卒業された島田梨香さんの体験談をご紹介します。

彼女の体験談は データやスペックを超えた「人の繋がり」と「勉強への情熱」が織りなす留学の形を教えてくれます。

オーストラリアへ大学院進学を決めた理由は?

私が海外留学を決意したのは、日本の大学時代に出会った、国内外で活躍されている先生の元でインターンをしたことがきっかけでした。その先生は、私が本当にやりたいことと、それを実現できる国を一緒に考えてくださいました。

留学先を「オランダ」と「オーストラリア」で迷いましたが、オーストラリアは、Landscape Architecture(ランドスケープアーキテクチャ)に力を入れている国だと言うこと、学生時代はモノと人が活発に動く場所に居たいという思いが強く、多様性を理解しようとするオーストラリアこそが私にとって最適だと考え、オーストラリアを選択しました。

アデレード大学を進学先に決定した理由は?


いくつか大学に出願し、ありがたいことに全ての大学からオファーをいただきました。

その中で、私がアデレード大学を選んだ決め手は、学科担当教授の温かい対応でした。教授はオファーレターとは別に私個人宛にウェルカムメッセージを直接メールしてくださったのです。

知り合いのいない土地で新しいコミュニティを築く不安があった私にとって、そのメールから伝わる教授の生徒への誠実さや、大学全体で入学から卒業まで丁寧にサポートしてくれるという説明は、私にアデレード大学が合っていると感じさせ、進学を決めました。

Landscape Architecture(風景建築)とは?

私が学んだLandscape Architecture(風景建築)は、英語で説明するのも難しい分野ですが、簡単に言えば、自分の設計したものが地図に100年以上残るかもしれない仕事です。

単に建物を設計するだけでなく、内部・外部を問わず、利用者が快適な環境であるように、周りの環境、あるいは都市全体を設計します。

利用者の移動空間の拡張や活発な活動を誘導することが目標です。授業では、理系的な計算や材料学、植物学、地質や水路計画といった分野と、文系的なデザイン性や社会学を複合的に学び、ひたすら設計を行います。

アデレード大学のLandscape Architecture修士号の授業について

授業スタイルは、フィールドワークやゲストスピーカーによる講義が半分、教授たちとのマンツーマン指導が半分という構成でした。

毎週どれかの授業で成果物のプレゼンテーションがあり、この経験のおかげで、卒業後の就職活動やお仕事で役立つプレゼン力を確実に強みに変えることができました。

プレゼンテーションには、建築学科のゲストや専門分野のプロフェッショナルが聴講に来て、あらゆる角度から質問や改善点をいただけるため、設計方法だけでなく、グラフィックスタイルまで力をつけることができました。

特に印象深かったのは**「Studio Cultures: Landscape Architecture」**という科目です。



この授業では、ゲストスピーカーを招いたり、フィールドワークを通じて、民族や土地の記憶を学び、文化継承や持続可能な空間づくりを設計・提案します。
アデレードにはKaurnaという先住民族が存在し、彼らの文化を通じて、土地との深いつながりや自然と共存する方法を丁寧に読み解き、設計に反映させることが重要でした。

私たちは Aldinga Washpool というエリアの現状改善について考える課題に挑戦しました。かつてKaurnaの人々が夏の終わりから冬にかけて利用していたような活気はなく、植物が育ちにくい状態です。
私は、そこに存在するハイミネラル成分と、Acacia Pycnantha に含まれるタニンという成分を活用し、土壌を回復させ、新たな植物が育つ環境を作ることができるという提案を行いました。

具体的には 自然物で作る「shelter pods」の設計、水を一定期間貯める「temporary puddles」の設置、そしてAcacia Pycnanthaなどの特定の成分を生み出す植物を配置する設計を、ポスターと7分のオリジナルアニメーションで発表しました。

この提案はクラスで最高点をいただき、さらに8月に開催されたURBIOカンファレンスで12分のプレゼンテーションをする機会を得て、オーストラリア、中国、イタリア、ドイツ、アメリカなどからカンファレンス参加者に私の提案をシェアすることができました。

ヴェネツィア・ビエンナーレプロジェクトについて

卒業制作ブックレットの掲載とエキシビションに選抜され、パネラーとして参加した際、担当教授以外の先生から、次のセメスターに開講されるヴェネツィア・ビエンナーレプロジェクトへの参加プログラムに誘っていただきました。

ヴェネツィア・ビエンナーレとは?
イタリアのヴェネツィアで隔年開催される世界最大級の国際芸術祭です。1895年に始まり、現代美術のほか、建築、映画、音楽、演劇など、さまざまな分野の国際展が開催されています。美術展と建築展が交互に開催されることが通例で、各国のパビリオンで展示が行われ、国際的な賞も授与されます。2025年は建築展が開催されています。
既に選択科目は履修済みでしたが、先生方が私の参加を許可申請してくださり、参加が叶いました。この時も 日頃のコミュニケーションがいかに大事かを改めて感じた出来事です。

このプログラムは、シドニー大学主催の「HOME: LIVING BELONGING」というプロジェクトで、年始1月から2ヶ月間行われ、全豪で 約100人の建築系学生が参加する大きなものでした。

毎週2回オンラインセミナーを受け、自分の作品と共に考えをプレゼンテーションし、フィードバックをもらいました。最終プレゼンテーションではゲストを含む5人の審査員の前で発表し、幸運にも最高得点をいただき推薦枠をいただくことができました。

その後、各大学・地域からの推薦者がシドニー大学に集められ、ビエンナーレのメインチームの方々が最終選考を行いました。

5月になり、アデレード大学の先生から「Conglaturation!」というメールが送られてきて、初めて自分の作品がヴェネツィア・ビエンナーレのオーストラリアパビリオンに展示されることを知りました。

その後 instagram にインタビュー動画や画像が載せられるようになって、自分の作品を見つけ、6月ぐらいにHOMEのウェブサイトに自分の作品が紹介されていました。

日本人の作品がオーストラリアで評価され、イタリアのオーストラリアパビリオンで展示されているという事実が今でも信じられないです。大変嬉しい出来事でしたし、これからもデザインを続けていきたいと心の底から思うことができました。

ぜひ作品をシェアさせてください!
オーストラリアパビリオンに展示されている作品の中で、日本人では唯一(オーストラリアの大学院で建築系を学ぶ 日本人学生の中でも唯一)です。
梨香さんの作品は以下のURLリンクから!
Space within Space

大学院生活、普段の勉強は?

セメスター中は毎日朝から夜まで勉強していました。プレゼンテーション前は、みんな深夜まで課題提出の準備をし、私も大体夜7時頃まで学校に残り、帰宅後も準備を続ける日々でした。

授業で分からないことがあった時は、まず友達に聞き、それでも解決しない場合は、教授や助手にメールや掲示ボードで質問しました。

先生方は回答に加え、必要な資料のリンクや本までシェアしてくださいます。
先生のサポート以外にも、アデレード大学では、ライティング支援、カウンセリング、キャリア開発ハブなど、学生が最大限の学生生活を送れるよう様々なサポートサービスが提供されているので、利用しない手はありません。

授業以外で取り組んだことは?

授業以外では、アデレード内のランドスケープデザイナーや学生が参加するSAILAのメンターシップに参加していました。企業や市役所の方がメンターとなり、就職活動のサポートや仕事現場の見学を体験できます。

私のメンターはとても親身になってくださり、休日に個人的に私の卒業制作を見ていただきました。
プログラム終了後、メンターから「イベントでの会話を通じて、ランドスケープへの熱意や学びたいという意欲がよく伝わってきたから助けたかった」と言われました

ここでも コミュニケーションと人との繋がりの重要性を改めて痛感しました。

クラスメートとの関係は?


友人たちとの交流を通じて、私自身も大きく成長しました。
特に、誕生日の人が友達を呼んでパーティーを開くという文化は日本には馴染みがなく驚きましたが、これをきっかけに、私自身も日本酒の試飲会を企画し、最終的に大人数でのパーティーを主催することになりました。
場所や時間を決め、誰に何を持ってきてもらうかを考えることは、私にとって新しい挑戦で緊張しましたが、皆が楽しかったと言ってくれた時、交流の楽しさが倍になりました。

学生寮では、ジェラートのキャンティーンなど食べ物のイベントがほとんど毎日開催されており、参加できるものには参加していました。空き時間には、ジムやシアタールームを使ったり、友達と過ごしたりしていました。週末は課題準備に充てることが多かったですが、長期休暇にはシドニーやメルボルンの友達に会いに行ったり、他の国へ旅行に行ったりもしました。

アデレードの良さは?


アデレードは学生が勉強する上でとても良い環境だと感じています。
街は都会出身の人には小さすぎると感じるかもしれませんが、生活必需品のほとんどがCBDエリアにあり、トラム一本で海まで行くことができます。バス網も発達しているため、車社会ですが生活する上では特に問題ありません。

私のお気に入りのスポットは、Adelaide Railway Station裏のRiver Torrens周辺です。柵がなく、水辺が近く、ブラックスワンなどの野鳥や大きな木々に囲まれた芝生の上でモーニングをとったことが一番の思い出です。

アデレードは、時間の流れが良い意味でゆっくりとしており自分の時間をもっと大切にする、丁寧な暮らしができる街だと思います。

卒業後の就活について

私は2025年9月に卒業式を迎えました。
就活を終えてみてデザインを志すなら、就職先をオーストラリアだけに限定する必要はないと思っています。

私は教授からの推薦でアデレードの大手企業との面接の機会をいただきましたが雇用条件が合わず、アデレードでの就職活動は諦めました。

学生寮の契約期間が切れるタイミングで一旦日本に帰り、自分の目指している仕事のスタイルを実現している、新卒が応募できる企業を国を問わず探し、企業理念や募集要項がマッチしたところに応募し無事内定をいただくことができました。

この業界はコネクションが大事だと言われます。実際、ランドスケープアーキテクトの求人数も多いわけではありません。しかし、コネクションがなくても、とりあえずメールして過去の実績や学んだことをアピールすることで、意外と新しいコネクションが生まれることを実感しました。

大学院への留学を目指す大学生や社会人に向けてメッセージを!

これから同じコースを目指す方へ伝えたいのは、興味を持ったことに対して、ぜひ諦めずにチャレンジしてみてほしいということです。
目標ややりたいことは、口に出して誰かに話すことが一番の成功につながります
話すことで頭の中が整理され、自分の目指すものがより明確になるからです。

スタッフからのコメント

留学や海外生活を通じて人生を左右するような分岐点がありますが、梨香さんが教えてくれたのは「人とのつながり・コミュニケーションの大切さ」でした。

もちろん躓きながらも勉強に全力を注ぎ、最高得点をマークし、オーストラリア選抜で イタリア建築展に作品が展示されるという成果は、梨香さんの努力の賜物です。しかし、それに関わる人とのつながりもまた彼女の成果なのだと考えさせられます。

梨香さん、ご卒業、そして就職おめでとうございます。

就職先も世界中から仕事を請け負う新進気鋭のデザイン会社のようですし、将来、オーストラリアで何かしらのランドスケープデザインを担当されることもあるでしょう。

応援しています!また何かの機会でお会いできること楽しみしています。
豪政府認定留学カウンセラーPIER資格保持
(QEAC登録番号I009)
オーストラリア、アデレード在住。豪政府認定教育エージェントカウンセラー(QEAC登録番号 I009)。経済連を退社しニュージーランドへの留学を決意。留学を終え、今後は ワーキングホリデーでオーストラリアへ。現地の旅行会社勤務などを経て、2002年より現職。クイーンズランド州、ニューサウスウェルズ州、南オーストラリア州の主要都市を移り住み、現在に至る。語学留学、TAFE専門、大学・大学院留学への留学相談、アデレードオフィスの留学カウンセラーとして、全力で留学生の進学相談とサポートを行っています。 このカウンセラーに質問する

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