私がオーストラリアでジュエリーを学ぼうと決めた理由
もともとアクセサリーは好きでしたが、それを仕事にしたり、本格的に学んだことはありませんでした。
以前、ゴールドコーストとシドニーを旅行で訪れたことがあり、そのときから「いつかオーストラリアに住んでみたい」という思いが心の中にありました。
日本で社会人として働く中、自分の将来について真剣に考えるようになり、「やりたいことに本気で向き合いたい」と思うようになりました。そんなときにふと思い出したのが、かつて訪れたオーストラリアの風景や雰囲気でした。
最初はワーキングホリデーでの渡航を考えていましたが、英語の勉強だけでは物足りなさを感じ、何か専門的なことを学びたいと調べていた中で、ジュエリーを学べるコースが海外にあることを知りました。そして、そのひとつがオーストラリアにあることも分かりました。
中でも、2年間しっかりとジュエリー制作を学べるメルボルン・ポリテクニックのコースに惹かれ、「学ぶなら本格的にやりたい」と決意。オーストラリアに対する良い印象も後押しし、長期での留学を決めました。
異色のバックグラウンドからジュエリーの道へ
大学では政治・経済を学び、卒業後は眼鏡店に就職しました。日々の業務を通じて、「身につけるもの」に対する興味が深まり、自然と装飾品やジュエリーへの関心も芽生えていきました。
本当はコロナ禍が始まる直前に渡航予定で、会社を退職し有給消化中でした。パンデミックの影響で結局留学を延期し、いったん会社に戻りましたが、「落ち着いたら再渡航する」と伝えていた通り、約2年後にオーストラリアへ無事渡ることができました。
英語力に不安があったため、まずはインパクト・イングリッシュ・カレッジで32週間の語学コースに通学。その後、2023年3月から念願のメルボルン・ポリテクニックでのジュエリーコースがスタートしました。
語学学校での経験と成長
コロナ前の英語力はIELTS 4.5程度でした。インパクトに通うことを決めた際に受けたレベルチェックテストで「32週間就学が必要」と査定され、本科コースとのパッケージで学生ビザを申請しました。
インパクトでは多国籍の友人ができ、英語だけでなく、さまざまな文化や世界の情勢について知る機会がありました。お互いに英語を学ぶ立場だからこそ、失敗を恐れずに話せたのも大きな経験でした。

TAFEでのジュエリーコースでは専門的な英語も多く使われますが、語学学校でアカデミックスキルや進学英語を事前に学んでいたおかげで、プレゼンテーションやレポート(ジャーナル)、ビジネスプラン作成などにしっかり対応することができました。
メルボルン・ポリテクニックでの学び
カリキュラム内容
◉ 1年目:基礎力の習得と技術の土台づくり
最初は道具の使い方から始まり、金属や石の特性、基本的なジュエリー制作技術、デザインの基礎、ビジネスの導入まで、幅広く学びます。全員が同じ課題に取り組むため、オリジナリティよりも「基礎をしっかり固める」ことが重視されます。
◉ 2年目:オリジナリティの追求とブランド構築
個々のスタイルや表現を大切にし、自分で考えたデザインを形にしていきます。CADを使ったデザインや3Dプリンターによるプロトタイピング、価格設定や利益計算など、ビジネス面もより実践的になります。用途に応じた制作方法(ギャラリー展示用やセット販売向けなど)も学びました。
最後に卒業展示会があるので、前期にネットオークションを通じて作品を販売し、展示会のための資金集めや広報活動にも取り組みました。後期は展示用作品(最低5点)の制作が中心となり、アーティスト・ステートメントの執筆やポートフォリオ、ウェブサイト作成なども行います。
1年目は「教えてもらう」立場でしたが、2年目には「自分で提案して、フィードバックをもらう」スタイルに変化していきます。
教師陣
授業ではこれまでに10名以上の先生方から指導を受けました。中には現役で活躍するジュエリーデザイナーもいれば、すでに引退された経験豊富な先生もいます。それぞれに得意分野や教え方に個性があり、多様な視点から学べる非常に恵まれた環境でした。

特に卒業制作の際には、自分の作品のスタイルや内容に合わせて専門分野が合う先生に相談できたのが大きな強みでした。技術面だけでなく、表現や見せ方に関しても実践的なアドバイスをもらえました。
授業はいつも和やかで、おしゃべりから始まることが多いのが印象的です。リラックスした雰囲気の中で学ぶことができ、毎回の授業が楽しみでした。
クラスメイトとの関係
私のクラスはほとんどがローカル(オーストラリア在住者)で、留学生はわずか3人だけでした。日本のことを知っている人が少なかったので、日本のカルチャーやジュエリーについて話すと、とても新鮮なリアクションが返ってきたのが印象的でした。
英語のスピードについていくのは正直大変でしたが、クラスメイトたちはみんなとても親切で、積極的にサポートしてくれました。意外だったのは、クラスの約3分の1が男性だったこと。ジュエリーというと女性が多いイメージでしたが、思っていたよりも多様性のあるクラスでした。

年齢層も幅広く、高校を卒業したばかりの10代から、60代の方までさまざまですが、中心は20〜30代でした。経験値もバラバラで、完全な初心者から、ショートコースを受けていた人、金属加工の経験者までいましたが、授業自体が自由度の高いスタイルだったため、経験の差で困るようなことはありませんでした。
クラスには自然と情報共有の文化があり、新しいことを知ったらみんなでシェアするという雰囲気がとても刺激的でした。同じ「ジュエリーが好き」という共通点はあっても、バックグラウンドが違えば、作品もアプローチもまったく異なります。それぞれの考えやスタイルに触れることで、私自身の表現や作品にも良い影響を与えてくれました。
また、先生と学生の関係性がとてもフラットで対等だったのも良かった点のひとつです。質問や意見を自由に交わせる環境が整っていたおかげで、学びがより深まったと感じています。
授業時間とアルバイト
授業は週3日、9:30〜16:30までで、学校では主に制作作業を行い、デザインのアイデア出しやジャーナルの記録、アセスメントの準備などは自宅で進めていました。
アルバイトは、1年目は飲食店で週4〜5日、1日あたり3時間ほど、2年目は週15〜20時間程度働いていました。生活費は基本的にアルバイトでまかなうことができましたが、ジュエリー制作に必要な材料費は学費に含まれておらず自己負担だったため、その出費がやや負担に感じることもありました。
シフトの関係で、学校のある日に夜遅くまで働いたあと、翌朝また登校ということもあり、体力的にきつい時期もありましたが、それも含めて貴重な経験だったと思います。
心に残った印象的な出来事
伝統技術を学ぶ授業の中で特に印象的だったのが、日本の伝統金属工芸「四分一(しぶいち)」をみんなで実際に作ったことです。これは、銀と銅を特定の割合で混ぜてつくる日本独自の色金(いろがね)のひとつで、オーストラリアのクラスメイトたちと一緒に日本の技法を学ぶという体験がとても興味深く、誇らしく感じました。
また、1年目の最後にはクラス全員で小さな展示会を開催しました。その準備の中で、ある先生が作品について少し厳しめのフィードバックをした際、学生のひとりが思わず涙を流してしまう場面がありました。でもその後、別の先生がその学生に「そのままでいいのよ。あなたの作品は素晴らしいんだから」と優しく声をかけ、クラス全体にも伝えてくれたのがとても印象に残っています。
こうしたやりとりを通して、「作品の正解はひとつじゃない」という先生たちの姿勢が私にとって大きな励みとなり、表現の自由や多様性の大切さを改めて実感しました。
その反面、ジュエリーは作品として完成度や美しさが重視される一方で、販売の場面では“手作り感”や温もりが魅力になることもあるため、何が「良い作品」なのかを単純に評価するのは本当に難しいとも感じました。だからこそ、自分自身の軸を持つこと、そして見る人・使う人の立場を想像することが大切なのだと学びました。
最終展示会と作品への想い
最終展示会では、「自分のバックグラウンド(日本)」を意識したデザインに挑戦しました。これまでの2年間で学んだ中から、特に自分が好きだと感じた技術を組み合わせ、デザインに落とし込んでいきました。

アーティスト・ステートメントでは、作品に込めた想いや、自分自身と向き合って感じたこと、そして先生やクラスメイトへの感謝の気持ちも丁寧に言葉にしました。自分の強みや個性は、自分だけではなかなか気づけなかったけれど、周りの人たちの言葉や支えによって見つけ出すことができました。
作品には、先生や仲間からもらった言葉、励まし、学び、そして自分自身の手と心で培ってきたすべてを込めました。「このジュエリーを身につけることで、誰かが少しでも自信や力を感じられるように」そんな想いを胸に、細部にまでこだわって、一点一点を丁寧に仕上げました。
メルボルンの街の印象
ヨーロッパ風の建物が立ち並ぶ街並みや、おしゃれで落ち着いた雰囲気がとても魅力的で、メルボルンは私の大好きな街になりました。街中にも自然が多く、緑豊かな公園や広場がたくさんあります。

また、クラスメイトと一緒に「Sovereign Hill(ソブリンヒル)」という観光地を訪れたこともいい思い出です。金の採掘体験ができるテーマパークのような場所で、実際に金属を溶かしたり加工する伝統的な作業のデモンストレーションを見ることができました。授業で学んだことと重なる部分も多く、とても興味深い体験でした。
家の近くの広場では、気球が着地する様子を間近で見られることもあり、そんな非日常的な光景が日常にあるのも、メルボルンならではの魅力だと思います。
今後の展望
この2年間で、ジュエリー制作の基礎から応用、販売方法やビジネスプランまで一通り学ぶことができました。「全くの初心者からでも、将来独立できる力を身につけられる」本当に実践的で充実したコースだったと感じています。
私はもともと細かい作業が好きで、小ぶりで繊細なもの、シンプルで飽きのこないデザインに惹かれるので、今後もそういったスタイルでピアス、ネックレス、リングを中心に作品を作っていきたいと思っています。
そしてこれからは、自分のブランドを立ち上げることが目標です。「身に着けることで、その人に少しでも自信や力を与えられるようなジュエリー」を目指し、まずは制作環境を整えるところから、一歩ずつ形にしていきたいと考えています。
スタッフからのコメント
メルボルンで新たな挑戦に踏み出し、技術を磨いてきたRimiさんは、現在、日本でジュエリーデザイナーとしてのキャリアをスタートさせています。
2025年7月からは、ジュエリー制作の体験ができる工房での勤務が決定しており、さらにレンタルスペースを活用した自身の制作活動も本格的に始める予定です。今後のさらなる活躍がとても楽しみです。
アート&カルチャーの街として知られるメルボルンには、アーティスト自身が手作りクラフトやアクセサリー、イラストなどを展示・販売できる個性豊かなアートマーケットが数多く存在しています。
ブログ:世界に一つの作品を求めて〜メルボルンのアートマーケットに行こう
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