留学開始までのバックグラウンドを教えてください。
私は大学卒業後、2回の転職の後同じ会社で約10年働いていました。その間、私は自分の会社に全く不満もなく毎日過ごしていたのですが、正直なところ自分の仕事に全く情熱を持てず、ただ漠然と毎日を過ごしていました。それどころか、いったい何に自分が情熱を傾けることがさえ分からず、また何かにのめり込んだことも一度もありませんでした。
そんな私を変えたのは、数少ない趣味である
読書でした。
学生時代から私は英語が嫌いで、海外の作品を読むときはいつも翻訳版を選んでいました。しかしある時、
「この翻訳は本当に作者が言いたいことを表現しているのだろうか?」と疑問を持つようになり、原書を英語で読んでみたいと思うようになりました。
その後、約15年ぶりに英単語帳を手に取り、また書店で
小学6年生用の、中学英語の準備のための参考書を購入し、勉強を始めました。当時私は‘be動詞’すら満足に理解しておらず、単語帳と高校までの英文法をカバーするのに約6か月を費やしました。初めての洋書として私はアメリカの児童書‘Holes’を選び、約1か月をかけて読み終えました。私は、その時の
感動を今でも覚えています。
それは洋書を英語で読むことが出来たというものではなく、
異なるバックグラウンド(言語、文化、価値観)の考えを直接理解することが出来たこと一点でした。
その後は、数多くの洋書を読み漁り、次第に
「異なる国の人々と、通訳抜きでコミュニケーションを図りたい」という考えるようになり、そのために国際語である英語を英語圏で勉強し、帰国後に英語力を生かした仕事に就きたいという考えに至りました。
当然、当時の周りの反応は賛否両論で、否定派の主な理由は
年齢でした。なぜなら当時私はすでに30代後半に差し掛かっていたからです。しかし、ようやく情熱を傾けることに出会えた私には迷いはありませんでした。
フリンダース大学への進学をお考えになった理由
正直なところ、いくら私の決心が固かったとはいえ、私の留学を決めた動機は漠然としたものと言えるでしょう。
当然、どこの国のどの語学学校に行きたいのかさえ決めておらず、雲をつかむような気持でインターネット検索をし、オーストラリア留学センターのウェブサイトにたどり着きました。すぐに電話で担当者の方に自分の目的を伝えたところ、アデレードのフリンダース大学付属語学学校 IELI (Intensive English Language Institute) を勧められました。
理由として、アデレードは落ち着いた都市であり、勉強に集中するには最適であること、また異文化が併存する都市でもあり、異文化交流にも相応しい場所であるとの事でした。
IELIで語学を学ぶ理由としては、それぞれの目的とレベルに合わせたコースが用意されていること、またアデレードでも
有数の厳しい指導(要求が高い)環境を持つ学校であるとの事でした。
また同時に、今回の留学を帰国後の英語力を生かした仕事に結び付けたいのであれば、大学院で
TESOL(Teaching English as a Second Language)を学ぶのも1つの選択肢であるとのアドバイスを頂き、大学院進学も含めた留学を決めました。
アデレードの印象は、留学センターの担当者さんが仰ったとおり非常な落ち着いた雰囲気で、特にIELIとフリンダース大学メインキャンパスの周辺は、豊かな自然に囲まれており勉強に集中するには打ってつけの場所でした。もちろん美しいビーチやシティへのアクセスも大変良く、退屈さや不便さを感じることもありませんでした。またさまざまな文化(オーストラリア、東南アジア、東アジア、中東など)が自然に融合し、様々な国の文化を体験することや、人々と交流することが出来きています。
大学院入学までの道のり
2014年10月にアデレードに降り立ち、到着2日後にIELIで英語力を診断するテストを受けることになりました。上述したようにIELIは各レベル(0~7)、スキルごとに細かくクラスが分かれており、診断テストは必須となっています。
結果、私は大学院進学のため、アカデミックコースのコミュニケーション3、リーディング・ライティング4、リスニング3のクラスから始めることになりました。
IELIでの授業は、私が持っていた語学学校のイメージ(フレンドリーな先生と楽しくわきあいあいと)を完全に
叩き壊しました。
当然ながら校内では英語以外はすべて使用禁止で、少しでも(小声でも)話そうものなら注意を受けました。出席率、遅刻、早退、宿題の提出は全て次のレベルに進むための点数に反映し、約1か月のセッション中に受ける複数のテストの点数と共に合計点が算出され、次のレベルに進むのか、同じレベルに留まるのか、下のレベルに落ちるのかが決定されます。
正直なところ大学院入学許可の目標レベル 7 に到達するまでの道のりは、
とにかく苦しかったの一言です(膨大な宿題や大学院入学日までに目標レベルに到達できるのかというプレッシャー等)。
しかし、各セッション終了後の
達成感は今までに感じたことがないほど大きなものでした。理由としては、各セッションごとに、確実に自分の英語力が向上しているのを感じることが出来たからです。例えば、前セッションのコミュニケーションのクラスで、ほんの1分程度クラスメイトの前で話すのも動揺していたのが、次のセッションでは5分間のプレゼンテーションをなんとかこなし、その次のセッションではいかに10分以内にプレゼンテーションをまとめるか悩んでいる自分に気づきました。
またプロの教師陣が、私たちがなぜ特定のスキル(リファレンシング、パラフレージングなど)を学ぶ必要があるのか、またそれらのスキル無しでは、どのような困難が将来(大学院)待ち構えているのかを逐一説明してくれましたので、私はIELIでのカリキュラムに疑問を持つことはありませんでした。
約一年間かけて何とか目標のレベルに到達した後、私はフリンダース大学の入学を許可されました。
TESOLを専攻した理由
上述したように、TESOLを専攻しようとしたきっかけは留学センターさんのアドバイスがきっかけでした。裏を返せば、それまで教職というものに全く興味がなかっただけでなく、TESOLという用語すら聞いたことがありませんでした。
では何が?私を真剣にTESOLに向き合わせたかと言えば、それはIELIのカリキュラムと教師陣と言えるでしょう。
私が日本で受けた英語教育はGrammar Translation Method (GTM)に基づいて、主に文法や単語に重点を置いたものであったのに対して、IELIのそれは、
Communicative Language Teaching (CLT)に重点を置いたものでした。
IELTカリキュラムの特徴としては、フォーム(文法等)をに加え、学習者に身に着けたスキルの使用を促すため、特にコミュニケーションスキル、アクティビティ(プレゼンテーション、ディスカッション、ディベート)、その他多くのグループワークやペアワークを中心に置き、また単調な教材ではなく実社会におけるトピックを用いた実用的英語学習に重点を置いていました。
さらに教師陣はあくまで学習者を主役ととらえ、自主性を促し、可能な限り自身を学習者の疑問に
的確なアドバイスを送る立場(facilitator)に立っていました。
これらCLTに基づいた英語学習は、私にとってとても新鮮であり、 また
自身の英語力向上にとても効果的であり、是非、外国語としての英語教育(日本、中国など)と第二言語としての英語教育(オーストラリア、アメリカなど)の違いなどを研究したいという思いに至り、TESOLを専攻する気持ちを新たにしました。また大抵のTESOLコースは教員免許を持っていることを入学の条件としているのですが、
フリンダース大学はそれ以外の学生にも門戸を開いているのも私にとって大きな利点でした。
大学院での生活について
全4セメスター(2年間)にわたる大学院でのトピックは多岐にわたっていました、
例えばレッスンプラン(TESOL Methodology)やアセスメントデザイン(Second Language Testing)のような教師として必須のスキルに関するものから、言語学(Introduction to English Linguistics)や、国際語としての英語に注目したトピック(English as a Global language)、比較文化の研究(Cross-cultural pragmatics and intercultural communication) などより言語に注目したもの。心理学(Motivation, Cognition and Metacognition in Learning)、テクノロジーや視覚映像を用いた英語教育に関するトピック (New technologies and E-pedagogy in foreign language education) (Visualising language learning) など多種多彩です。
授業内容に関しては、基本的に基礎となる部分はスタディガイドや教科書を用いた予習でおさえ、授業中はグループワークによるケーススタディなど、より実践的なものを要求されます。それゆえ、各トピックのアセスメントはエッセイなどの課題に加え、どれだけ授業に積極的に参加したか(participation)が考慮されます。
ですので、いくら無遅刻無欠席で予習をしっかりこなしたとしても、授業中全く発言せずただ座って聞いているだけでは不十分ということになります。私はあまり自分の意見を述べるのは得意ではなかったのですが、ディスカッションを通じてクラスメイトから毎回質問攻めや意見を求められましたので、何とか慣れることが出来ました。
クラスメイトに関しては、やはりTESOLコースということで、現役の教師や教育にかかわる仕事をしている生徒が多かったです。それゆえ、上述のグループワークなどで自身の教師としての経験をクラスメイトとシェアする必要があるときは戸惑いましたが、講師を含め全てのクラスメートが
「経験がないのは気にしなくていいから、達也は日本での生徒の視点からの意見や経験を述べてほしい。それは私たちにとってとても貴重なものだから。」と常に私の意見を尊重し、また取り入れてくれました。
生徒はオーストラリア人に加え、インターナショナルスチューデントが大きな割合を占めていましたが、第1セメスターのあとは、日本人は私1人でした。
日本の大学との比較について
私が日本の大学を卒業したのは約20前になりますので、単純にこちらの大学と比較はできませんが、かなり忙しいという印象を受けました。
各セメスターはだいたい4つのトピックで構成されると思うのですが、それぞれに3~4つのアサインメントがあり、通常セメスターの初日はアサインメントの要旨の説明に費やされます。その後は各トピックの予習(スタディガイド、テキストブック、関連するアーティクル)とアサインメントを同時並行で進めていかなければなりません。
またアサインメントの中には、たいてい1つはグループやパートナーと行わなければならないものがあります(プレゼンテーション等)。その場合、アサインメントまでにクラスメイトと複数回の打ち合わせのをしなければなりません。
そのため、私にとって
スケジュール管理はかなり重要なことでした。
各セメスターには約2週間のMid-Semester Break が設けられているのですが、たいてい休み明けに最初のアサインメントの締切日が設けられているので「すべてを忘れてホリデイを楽しもう!!」というのは難しいかもしれません。これらのことから、こちらの
大学生は本当によく勉強します(せざるを得ない)。ですので
図書館は常に学生であふれかえっており、席を見つけるのも困難な時があります。
大学院での勉強以外で、現地生活で何か取り組んでいたことは?
これは語学学校の時から取り組んでいることなんですが、出来るだけ
シェアハウス周辺住民とコミュニケーションを図り、彼らのコミュニティーに関わっていこうとしてきました。
彼らの中には、私をよく夕食に招待してくれたり、またちょっとした
アルバイト(ガーデニング、ペットの世話等)をさせてくれた人たちもいました。
知り合いになった周辺住民の1人はクリスチャンで、私を教会によく誘ってくれました。私は大多数の日本人と同じで仏教と神道と共に育ち、ほとんど宗教に興味がないんですが、彼らは快く私を迎え入れてくれて、また彼らの考えを押し付けることは一切ありませんでした。
私がなぜこの教会に通っていたかと言えば、そこはどんな国籍、バックグラウンドに関わらずに人々を受け入れ、彼らの困難を分かち合い、解決に向けて話し合う場を設けていたからです。この教会の寛容さは、
アデレードの異文化併存都市の1つの側面を見ているようで、私は
貴重な経験をさせてもらったと思います。
オーストラリアの大学院進学を目指す方にアドバイスを!
「資金に不安があるけど...何も考えずにとにかく現地に飛び込んで、後のことはその時に考えればいい!」 と言う威勢の良い言葉が好きな人がいるかもしれませんが、それは間違えているかもしれません。
いくら私の留学の動機が思い切ったものであったとしても、当時、私は語学学校を含めた
十分な資金がありました。何が言いたいか?と言いますと、皆さんの英語力によっては大学院卒業まで長期滞在になる可能性があります。なぜなら大学院は皆さんの英語力が不十分だと判断した場合、条件付き入学許可を出し、語学学校からの英語力の証明書か、IELTSなどのスコアの提出を求めます。どちらも皆さんの努力次第ですので、いつまでにという予想をすることは難しく、また学費、受験料(IELTS: $330)、生活費も決して安くはありません。また
パートタイムジョブに語学学校の段階から頼るのも無理があると思います。
次に
年齢を気にしている方がいらっしゃると思うのですが、10年後の自分を想像してみて、もしそこに
「あの時留学していたら…」と後悔している自分がいたら挑戦してみたらどうでしょうか?
私は
残りの人生を後悔しながら生きるのは、まっぴらごめんでしたので挑戦しました。
また年齢を理由に英語習得に不安を持っている方。私は留学の2年前は、
30代半ばで小学6年生の英語参考書で勉強していました。そしてこの12月に無事TESOL修士課程を修了しました。
今後の目標について教えてください
私は日本に帰国後、英語講師としての仕事に就きたいと思っています。TESOLコースで学んだアプローチ等が、果たして日本のコンテクスト(English as a foreign language) で機能するのか、またそうでなければどの様に修正していくのかを実践できればと思っています。